昨今、自動車整備士を取り巻く環境は大きく変わろうとしています。
これまでは3K。
つまり「きつい」「汚い」「危険」と揶揄されることも少なくない職業でした。
しかし、保育士や介護士と同じく公共インフラを支える自動車整備士は必要不可欠な職業です。
国会議員 はまぐち誠 氏は、元トヨタの労働組合出身で自動車整備業界の発展に尽力されている方ですが、その方ととあるラジオ番組でわたしが対談させていただいたときにおっしゃっていたのが【新3K】です。
「給料」「休暇」「希望」
この「新3K」は当たり前のことのようで…誰もが分かっているようで、実現されない職場・会社は、自動車業界に限らず多いです。
同じ自動車整備士業界で働くわたしが「転職」「役職付き」になった経験、周囲の人との付き合いをとおして、自動車業界に根付くこの問題について出した答えについて書き綴っていきます。
自動車整備士の若者の未来を本気で考えない、利己主義な管理職の蔓延
いまの自動車整備士業界は、若者のクルマ離れや価値観の多様化により急速に自動車整備士の数が減少しています。
たとえば、2009年に新卒で入社した時代と10年以上経過した今では、専門学校の学生の数はおよそ半分にまで減少していると聞きます。
実際にみなさんの職場では、高卒の無資格スタッフや外国人労働力に頼らざるを得ない状況に面しているところもあるはずです。
もちろんその状況が悪いと言っているわけではありません。
ただ、そこまでしないと労働力が確保できない今、これからの時代の最前線の現場で職務を担っていく若い自動車整備士の存在は、間違いなく貴重です。
自動車業界を去っていく有望な人材たち
しかし、そんな将来の自動車整備業界を担っていく若い人たちですが、会社(人事)が苦労して確保した人材の流出に、歯止めがかからない状態となっています。
わたしの現在勤めている会社も同じです。
転職1年目のメーカー研修で一緒になった、他店舗の新人スタッフ2名ですが、1名は入社から10ヶ月で、まったくの別業種に転職してしまいました。
転職からちょうど1年たった頃に、再度もう一人とメーカーの研修で一緒になりました。
しっかりと自己主張ができ、礼儀もしっかりとしており、生粋のクルマ好き、1年目とは思えない知識量で今後の成長が楽しみな若手でした。
しかし、久々に会った彼から聞かされたのは「実は僕ももう辞めるんです」という衝撃の告白でした。
なんて悲しい報告なのか…。
その原因はどこにあるのでしょうか。
部下は駒じゃない!上司の都合のよい店舗運営が原因
彼が辞める原因となった理由の具体例を掘り下げるよりも、みなさん自身や周囲を見渡し想像するほうが理解しやすいかもしれません。
要は上司が自分(だけ)が会社によい顔をしたい、体裁を保ちたいという非常に自分勝手かつ、都合のよい店舗運営が問題なのです。
想像してみてください。
あなたの周りにもいませんか?
- 残業時間を正確につけてもらえない
- 内容よりもとにかく時間!時短!
- ただし、それにより生じたミスも許さない
- コンプライアンス順守の意識が部下よりも低い
- 売り上げ至上主義
- 仕事はできるかもしれないが人を育てるセンス0
- 挨拶もまともにできない
- 周囲を見下した言動
- 会社の上層部の太鼓持ち
- ・・・以下省略
新人君の店舗は社内でも、数字の達成面では優秀な店舗です。
ただその裏側の闇はかなりのものです。
- 上司の裁量によって決められる残業時間によるサービス残業の常態化
- すべては上司のツルの一声でNGであるものもOKに(具体的なことは書けませんが)
- 社内事故でけが人が出ているのに、けが人はいなかったと押しとおす(労災はいずこへ?)
- 上司のクルマの車検が終わり、洗車できてないことに当人ブチギレ!もうすでに夜だったのでサービス総動員で洗車し終わるころにふらっと現れ、ポリッシャーで磨きだす
- 日中の業務は円滑にこなすのも難しい重複度合い。にも拘らず、残業に入るとブチギレ
これらの問題により、店舗内の雰囲気は壊滅的なようです。
じつは、辞めるのは新人君だけではありません。
すでに中途入社の整備士が一人退職済み、別の中途入社の整備士も辞めようとしているとのことです。
なんと、半年の間に本来6~7人の規模である店舗の整備士のうち、4人が去っていくという危機的状況です。
この結果を招いたのは、自分の欲求のままに突っ走り、他人(部下)を思いやる気持ちや未来のことには目もくれず、目先しか見ることのできない管理職です。
転職エージェントを利用して優秀な中途社員を雇おうとする心意気はよいのですが、これじゃただ散財しただけで会社には何にも残りません。
むしろ辞めていった中途社員は、前職・次の職場と横のつながりがさらに広くなるなかで、きっと弊社のことは良いようには言わないはずです。
狭い業界ですので、悪いうわさが広まるのは一瞬です。
お金も失い、人材も失い、信用も失う。
ましてや、SNSが発達した現代ではなおさらです。
あのぉ…小学生でもすこし考えればわかることですが、会社の経営を担い多く部下を束ねる管理職や役職付きの方が、こんな単純かつ簡単なことに気がついていない…なんてことはないですよね?
なぜ若者の未来を考えられないの?
ではナゼ、本来は部下の指導・育成に当たる上司・管理職が、先ほど紹介したような傍若無人っぷりを発揮しているのでしょうか。
手放してなるものか!苦労して付いた管理職
これは自動車整備業界に限らず、働くうえでかならず付きまとう問題ですが、10年20年と勤めてやっとの思いで出世して得た管理職というポジション、簡単には失いたくないのが正直なところでしょう。
その気持ちには私も同感です
もちろん、管理職という職務を全うするうえで会社という組織に属している以上、利益を上げることが最重要課題です。
そして、会社が管理職を評価するのはその【数字】です。
数字は分かりやすいですね。
専門家でなく、その業界を知らない素人ですら、だれが見てもその良し悪しを判断できてしまうのですから。
そして、いくら楽しく和気あいあいと仕事をしていたとしても、ボランティアではないので【数字】として結果を残すことができなければ、管理職としての職責を問われるのが世の常です。
無論、その結果によっては苦労して上り詰めたその地位を失うことになりかねません。
そりゃ、数字必達のためならそれ以外の部分が盲目にもなるでしょう。
じゃあ、部下や人材をないがしろにしても良いかと言われるとそれは別問題ですけどね。
ただ不思議なもので
- 多くの部下を退職させてきたが、数字の結果を残せる管理職
- 雰囲気が良く部下から慕われるのに、数字は悪いわけではなく当たり障りのない結果は出せている管理職
どちらかは不思議とその後も要職へと出世していくんですよね。
その答えは言わずもがな、おそらく前者であるパターンが多いのではないでしょうか。
こういうパターンの上司・社員は出世欲が強く、その結果、自己中心的な言動をとる一匹オオカミタイプが多いです。
さらに加えると外面が良いタイプが多く、他店舗などの直接一緒に仕事をしていないスタッフからは「え?あの人のなにが悪いの?普通の人じゃん」と言われることも。
部下と上司の板挟み
店舗のサービスマネージャーや工場長といった管理職は、非常に多忙な役職です。
店舗の部下の要望・意見・不安・不満をくみ取り、みんなが気持ちよく働けるように尽力しなければいけません。
一方で、サービス部の部長のような本社(本部)の上司からは、会議のたびに「○○の数字はどうなっている」「どうやって達成する?」「次はないぞ」…と、とことん詰められます。
この上司(本部)と部下(店舗スタッフ)の板挟みは、わたしたち現場で働く自動車整備士には理解しようとしても理解しきれない辛さ・大変さがあることでしょう。
部下から慕われる上司は、他人のこと思いやれる繊細な方です。
そういった方のなかには、心を病んでしまいリタイアすることになる方もいます。
一方で、出世欲の強い一匹オオカミタイプは、良くも悪くもそのような個人の感情は捨てています。
ある種の仕事人間でもあり、そのプロ意識は見習うべき点もたしかにあります。
しかし、その板挟みからの脱却手段として、思いやりの感情を捨てた以上、もうそれまでです。
もちろん会社にとっては、数字をあげるうえで心強い社員でしょうが、そんな上司(管理職)には誰もついてきません。
せっかくステキな会社であったとしても、その上司がひとりいるだけで、部下の不平不満は積もっていきます。
- 諦め、心を無に淡々と仕事をこなす者
- 不満を外部やSNSに吐き出す者
- 会社を去っていく者
もしかしたら、あなたが嫌いな上司の人間性を作り上げたのは、その人自身の本来の人間性の問題だけではなく、会社のシステムや構造による部分もあるのかもしれませんね。
未来の自分を支えてくれるのは上司ではなく部下ですよね?
わたしは、同じ整備士業界内で国産ディーラーから輸入車ディーラーに転職しました。
それと同時に、国産時代は現場長でしたがあくまで【一般職】から、【主任職】へと一応、役職付きになりました。
さらに言うと前職では、係長であってもその多くは係長らしい業務や責任を求められることはなく、あくまで肩書のひとつにすぎませんでした。
会社の規模も大きかったためか、係長という役職の重責を感じることもありません。
一方で、いまの会社は前職より規模でいうと1/3程度です。
扱い車種が輸入車、またもとは小さい会社で近年急拡大した背景もあり、役職のついたスタッフの重要度は前職よりも格段に高いです。
役職付きか否かは実際の職責や立場に準ずることが基本となるので、主任職であっても役職付きの自覚は自然と芽生えることになります。
ここで自分自身、以前より確信していた強い想いは実際に役職付きになったことで強くなります。
自分自身の【働くこと】に対する正義を貫く。
そのためのベースはあくまで【上司<部下】であるということです。
肩書としての役職がつき部下を抱える立場となり、彼らがどうすれば「成長できるか?」「気持ちよく仕事ができるか」「プライベートを充実させてあげられるか」を、以前にもまして本気で考えるようになりました。
上司であるわたしは、自分だけの力でその立場にいるわけではありません。
日常の業務においてそれを支えてくれるのは、支店内の営業・フロント・レセプション(事務員)、みなさんです。
もっとも大切なのは、自分自身の今後の業務を助けてくれるのは、部下を含めた若い世代であることに本気で気付くかです。
だって、いくら管理職の上司に媚びを売って太鼓持ちしたところで、いま40~50代の上司と仕事で密な付き合いをするのは10~20年です。
一方で、自分より若い20代のスタッフはこの会社にいる限りは、ザっと30年の付き合いになります。
ましてや、今後自分が管理職になったときに、日々の業務を直接的に助けてくれるのは彼ら若い力であって、今後は現場を退いていくことになる、いまの管理職の方々ではありません。
たしかに、社会を賢く生き抜き出世するためには、自分を引き上げてくれる上司(管理職)の懐に入り込む政治力は必要不可欠です。
ただ、そんな自分のためだけにしかならない、薄っぺらい仕事人としてのこだわりから生まれるものってなんなのでしょう。
そのたどり着いた先に、ある一定のやり切った満足感はあるのかもしれません。
しかし、それと同時に本当の意味で、他人からひとりの人間として慕われることはなく、どこか虚無感を抱えたそんな人生のラストスパートを迎えるような気がしてなりません。
整備業界の明るい未来を見据えるための管理職の思考法
では、自分自身が管理職や店舗運営をする立場になったときに、どういうスタンスで仕事に向き合えばよいのでしょうか。
理想論?そんな簡単な言葉で片づけたくない
ここまで書き綴ってきた中で、すでに答えは出ていますがここでまとめておきます。
- 「上司」「本部」「会社」に対して、NOと声を出して主張できる強い心
- 未来の整備士が働きやすい環境づくりが、自身の責任・職務と理解する
- そのためには、自分が矢面に立ってもいいという覚悟
この3つです。
正直言って、わたしの考えていることは「ただの自己満足」「所詮は理想論」と思う方も多いはずです。
また「そんな生き方してちゃぁ損するぜ。要領よく生きなきゃ…」という声も聞こえてきそうです。
しかし、こんな当たり前のことができぬまま現代に至り、
- 給料問題
- 残業問題
- 人材不足
…といった根深い問題を、多くの自動車ディーラー・クルマ屋が抱えることになってしまっているのではないのでしょうか。
そんな理想論が自分の幸福度を上げる!?
ここで、わたしの経験談を紹介します。
現場長であった前職で同僚たち(後輩はもちろんひと回り上の先輩も含む(笑))を心の病や、退職という選択肢に追いやる危険性を持った先輩が自店舗にいました。
彼はバリバリに仕事ができるのですが、一匹オオカミタイプでプライドが高く、他人へは常に攻撃的。
仕事ができる=かしこいので、その攻撃的な部分は言葉のチョイスや場面によって、一層相手を追い込みます。
仕事がバリバリにでき、サービス部長のお気に入りでプライベートでご飯にも行く仲のようで、サービスマネージャーへの昇進も時間の問題でした。
ただ、係長という役職でありながら人が育つか否かは本人次第、俺は知らんぞというスタンス…。
さて、ここでこの記事でも散々語ってきた、わたしの仕事に対する価値観がニョキニョキと頭をもたげてきます。
退職を決意するまでのおよそ1年間、本部スタッフや他店舗の上司・管理職、労働組合等にまでサポートしてもらい、大々的に声をあげました。
結果は組織には勝てず…でした。
しかし、退職後もわたしと関係を持ってくれ、店舗にふらりと遊びに行くと受け入れてくれる仲間がいてくれます。
問題となった先輩と仲の良い社員たちも、客観的に見てもわたしの主張の方が正しいと認めてくれました。
自分自身のこうした経験や、整備業界を変えたい前向きな考え方をTwitterやブログで発信するなかで、賛同していただきDMをくれたり、関りを持ってくれる仲間が全国にできました。
「自動車整備士を社会の主役に」を掲げた、ラジオ日本の番組「メカラジ」の記念すべき第一回ゲストとして出演、また別の機会には、 国会議員 はまぐち誠 氏 と対談させていただくという貴重な体験もさせていただきました。
わたしは、非常に前向きで行動力のある素晴らしいひとたちが周りにたくさんいることに気づきました。
これって、本当に恵まれているなぁと思います。
自分でいうのも心苦しいですが…
理想論かもしれませんが前向きな発信を続けてきたことが、ここに繋がっているのでは?と感じています。
不思議なもので、周りにポジティブで行動力のある方々がいると、本来なにも持っていない自分までもが、何かを成し遂げられるのでは?という謎の自信が出てきます(笑)
後ろ向きなことがあっても、ポジティブがかき消してくれます。
何だか分かりませんが、アドレナリンが出ているのかワクワクします。
そして、気づきました。
あ、そういった環境にいることで自分って今、すごく幸せなんだなぁと。
前の会社を辞めたわたしを、もったいないことをしたバカなヤツだなぁと思う方もいるでしょうし、自分自身にもそういう気持ちがないと言えばウソになりますが…
全然、辞めたあとのほうが自分らしくいれて幸福度高いなぁと。
だから、そんな自分自身の体験があるから、この記事で語っている以下の思考が自分の幸福度をあげると断言できるのです。
- 「上司」「本部」「会社」に対して、NOと声を出して主張できる強い心
- 未来の整備士が働きやすい環境づくりが、自身の責任・職務と理解する
- そのためには、自分が矢面に立ってもいいという覚悟
これらを貫くことで、一時は冷ッというような冷水に突っ込まれたり、煮え湯を浴びさせられるような思いや経験をするかもしれませんが、最後には悔いのない達成感と満足感、幸せを感じられるはずです。
自動車ディーラーの健全な運営に必要なのは、次世代が働きやすい社会にしたいと本気で思いやる気持ち
先ほど、わたしが提唱した管理職の思考法は、本来あえて意識するものではないと考えています。
それは単純に、店舗内のスタッフ全員が気持ちよく働ける雰囲気をつくろうと本気で思ってさえいれば、誰にでもできる当たり前のことだからです。
しかし、社会の荒波にもまれ続けると何故か、当たり前に他人の思いやる気持ちが後回しとなり、忘れ去ってしまうようになるのです。
恋は盲目と言いますが、出世に目がくらんだ仕事人も大切なことに盲目になってしまうのですね。
私たちは、そんな人として本当に大切なことを忘れないようにしたいです。
売り上げ・利益の数字さえ結果を残すことができればすべてよし。
そんな時代は、もう終わりました。
ES(従業員満足)の向上がCS(顧客満足)の向上につながり、それが収益アップにつながる。
これからの時代は、そういう方向にシフトとしていくと信じています。
そんな新時代を担っていくのは若い人材なわけですから、上司や先代から引き継いできたもののなかで、悪しき習慣や時代にそぐわないものは取捨選択し、働きやすい業界づくりをすることこそ、私たち現役世代に課せられた使命なのではないでしょうか。
まとめ
どうしても仕事のことについて語りだすと、暑苦しくなってしまいがちで大変失礼しました。
しかし、せっかく入った人材が定着せずに、万年人手不足に悩まされる自動車ディーラーが、このままではヤバいことは火を見るよりも明らかです。
自動車ディーラーの業務は、自動車の進化と共に複雑化し多様性を増しています。
たとえ、ひとりの戦力ですらムダにはできないですし、貴重なものです。
人材の流出を食い止めるためにも、自動車ディーラーの経営・運営において、次世代の若者を本気で思いやり行動できる管理職の発掘・育成が急務です。
それを、ないがしろにして
- 人材なんて、その気になればいくらでも集まる
- 甘ったれたことぬかすな。経営にもっとも大切なのは利益だ。それがなければ、人も雇えないじゃないか
- 自分さえ生活できて、自分さえよけりゃ後のことは知らん
(そういや、わたしが辞めるきっかけになった前職の係長先輩も最後の最後まで、ヒロの考え方は甘いわ!と聞く耳は持ってくれませんでしたね…)
そう、頑なに貫くのであればその自動車ディーラーに未来はないはずです。
こうした発信をわたしが続けるその理由は、以下の記事にまとめています。
気になる方は、ご一読いただければ嬉しいです。